不安を解消する|ヨガ哲学で見る心の理解と解消方法

2024年元日に起こった地震では石川県の方々に多くの被害をもたらし、石川県のみならず周辺の県にも津波警報や液状化など目に見える被害の他、連日続く余震など私たちの心は傷を負い、不安が続く毎日を過ごしているのではないでしょうか。

私の住む佐渡島も震度5強の揺れを観測し、島全体を覆うように3メートルの津波警報が発令され人生で初めて深刻な命の危機を感じる出来事となりました。現在は日々こうして生きていることへのありがたさを感じるとともに、連日続く余震に怯え小さな揺れや建物がきしむ音にも敏感に反応してしまう毎日に「早く解放されたい」と私自身も緊張感が抜けない日々を過ごしています。友人とも話しをしたのですが、昼間は多くの方と接するため不安な気持ちは紛れるけど、夜になると途端に不安な気持ちが湧きあがるという心情を感じる方は少なくないはずです。

今回は私も自身も助けになった不安の解消方法の他、ヨガ哲学で見る心の理解について勉強したものをまとめてみました。

また、今回の自然災害以外にも日常的に不安を感じやすい方、症状の診断を受けている方が日常を快適に過ごすためのヒントとなれば幸いです。

不安の原因を知りましょう。

ご自身の不安な気持ちは目には見えないもの。ですが不安を感じた時、いてもたってもいられないようなどうしようもない気持ちや、「逃げたい」「解放されたい」という気持ちで心はいっぱいになりますよね。

不安は何が原因で引き起こされるのでしょうか。不安のもととなるものを紐解いてみましょう。

不安は危険から命を守る本能である

不安な気持ちはご自身を危険から守るための私たちの本能であるということを心にとめておきましょう。身の危険を感じた時、不安な気持ちが起こるからこそ私たちは危険を回避するために素早い反応やあらかじめ対策をすることができ、危険なことから逃げることができるのです。

しかし、不安が大きく膨らみすぎるがゆえに心や体のバランスを崩す原因にもつながりかねません。心の傷がトラウマとなり、身体に反応が出てしまうことや、生活に支障が出てしまっては生きづらさにつながるからです。

不安の感じ方は人それぞれ異なる

私たちは色眼鏡を通して外の世界を見ています。その色眼鏡はその人の経験や周囲の人の価値観など人生の成長過程で身に着けた信念で作られていて、人それぞれ異なります。みんなが同じ景色の場所に立っていたとしても色眼鏡を通してみる世界は人それぞれ違っていて、ご自身の内側で投影したものが外側の世界で投影されているのです。

なので、自分の内側でどんな世界が繰り広げられているのかを理解して変えていく事ができれば、外側の世界を変えていく事ができるのです。

例えばうまくいかない出来事が起こったとき、私たちは相手や外側のせいにしがちですが、実は「うまくいかない」というジャッジをしているのは自分自身で、色眼鏡で「うまくいかない」と外の世界を判断しているのです。そしてその裏には「こうありたい」という期待が隠されています。

ヨガ哲学では不安はマーヤー(幻影)と呼ばれる苦しみと説いています。苦しみは“抵抗”することによって生まれてくるのです。“抵抗”は、自分の安心安全な場所から出たくないという人間の本能です。今自分は期待とともにどのようなことに抵抗しているのでしょうか?

自己肯定感が低いと不安につながりやすい。

『自己肯定感』という言葉を実用日本語表現辞典で引いてみると、「自分自身の価値や能力を認識し、肯定する心の状態を指す言葉。」とあり、自己肯定感が高い人は、「自分自身を尊重し、自分の意見や感情を大切にする傾向がある。また、困難な状況に直面した時でも、自分自身の力を信じて行動することができる。」と記載されていました。

自己肯定感の低い人は自分自身に対しての安心感が低く、安心できる場所を外側に求めてしまう傾向にあります。意見を他者に求めることが多い方や、他人の顔色をうかがう癖のある方は「周りからどう見えるのか」を気にするあまり、自分の本当の気持ちを見失ってしまいます。そのため、安心を感じる相手や物に依存してしまう傾向にあります。経験のある方、今その状況にある方はとても苦しいですよね。

ヨガ哲学によると、私たちは自分で「好き・嫌い」をジャッジして好きなものに依存して、嫌いなものは不快な気持ちを感じます。これが苦悩の原因だと説いています。自分自身に対する「好き・嫌い」の感情は過去の経験に原因があり、過去に感じた嫌な経験が原因と説いています。

例えば過去に友人と一緒に過ごしていて相手が急に機嫌を損ね、そこからしばらく無視されるようになった出来事があったとします。自分のどの発言で相手は嫌な気持ちになったのか分からず、そして無視される度にショックな気持ちを覚えるような体験が大きなトラウマとなってしまいます。その経験から「もっと考えて言葉を発さなくては!」と気を付けすぎるあまり、相手の顔色を伺い、「自分の発言で相手が嫌な思いをしないように。」と価値観が相手中心に変わって行ったとしたら、自分も苦しいし、相手もいつも気を使われていたら違和感を抱きますよね。相手との関係がうまくいかなくなり、自己嫌悪への悪循環に繋がります。

子どもの時から「こうでないとだめだ!」と言われたり、ある出来事から生まれた偏った思考は苦痛に伴う反発の感情となり、大きな不快感を生み出し続けてしまいます。そうすると自分に対する肯定する感情や安心感が抱きにくく、不安を感じやすくなるのです。

不安解消の実践

ここからは不安解消に向けてアクションを起こしましょう。まず、お伝えしたいのは不安な気持ちは抑えずに感じましょう。不安な気持ちに蓋をしてしまうと不安は増幅して心に負担がかかってしまうからです。「私は今不安を感じているのだな。」と自分の不安な気持ちを受け止めましょう。それを踏まえて、ここでは早急に解消したい時におすすめの方法(不安に引っ張られた心を自分に戻す方法)と、心に根強く残る不安を解消したい時におすすめの方法をいくつかご紹介していきます。後者はすぐに解消できるものではありませんが、少しずつ心が軽くなっていくようにトライしてみてください。

早急に解消したいときにおすすめの方法

今この不安感を解消したい!恐怖や不安に引っ張られた心を自分に戻すことで心は穏やかな状態に戻り、身体の緊張感も緩みます。できそうなものを参考にしてみてください。

1.ジャーナリング

具体的に人それぞれ違う不安の原因を探るために私は不安に気づき、原因の核となる部分まで深ぼる作業をおすすめします。漠然とした不安を感じたら、なぜ今不安なのか、この不安はどこから来ているのか、何に怖がっているのかを深ぼるという時間をとります。紙に書きだしてもいいですね。不安は、不安の原因となる事実に過去の記憶からくる思考や怒りなどの感情・価値観などが上乗せされて複雑になっている状況が考えられます。その為、漠然と不安な気持ちだけを感じてしまう状況に陥りやすいのです。なので、不安の核となるものをシンプルにしてご自身で理解していきます。

【ジャーナリングの方法例】

・自分の気持ちに集中できるところで行う

・誤字脱字は気にしない

・今の自分が置かれている状況・気持ちを正直に書く

不安の解消の作業とともに、感謝日記をつけていく方法もおすすめです。様々な出来事を伴う日常に置かれているご自身と深く繋がり、自分自身を理解していきましょう。

2.呼吸法を行う。(自分の呼吸を意識する。)

不安や恐怖を敏感に感じやすい方は呼吸が浅くなり、身体が余計に緊張してしまいます。呼吸が浅い状態は興奮状態になるため、不安や緊張がより増幅してしまいます。また、心は“不安”や“恐怖”に引っ張られている状態にあります。その為、心を自分の中心に戻すことが心のゆとりを作ることに繋がります。意識を自分に戻す方法として呼吸法を実践してみましょう。

【ナディーショーダナ/片鼻呼吸】

自律神経を整える効果がある呼吸法です。交感神経と副交感神経のバランスを整える効果があります。

①楽な姿勢で座ります。(床でも椅子でも構いません)
右手を出し、人差し指と中指をまげたら親指で右の鼻を押さえます。(左の鼻は開けておきます)
左の鼻から細く長く息を吐きましょう。(はじめは4カウント。慣れたら8カウントの長さで)吐き切ったら同じ左の鼻から同じカウント分息を吸いましょう。薬指と小指で左の鼻を抑え、親指を放し右の鼻から同じカウントで吐き出します。

【呼吸の動きや感覚を感じる】

呼吸は吸う時に身体が中心から外へ広がる(伸びる・膨らむ)作用があり、吐くときに中心に戻る(力が抜ける・(力が入ると)筋肉が収縮する・安定する)作用があります。呼吸を繰り返しながらご自身の身体の感覚に意識を向けてみましょう。

①楽な姿勢で座ります。(椅子でも構いません)
②目は閉じていても開けていても構いません。開けている方は鼻先遠くをぼんやりと見つめます。
③鼻、あるいは口から細く長く息を吐きます。
④吐き切ったら吸って。慣れてきたら鼻で呼吸を繰り返します。
⑤呼吸に慣れてきたら、吸う時に身体のどこに呼吸が入って広がり、吐くときにどこの力が抜けるのか意識を向けていきます。~3分もしくは5分を目安に行ってみましょう。

3.瞑想をする

瞑想は心を静めて無心になることを、何も考えずリラックスすること、何かに意識を集中させることを指します。先ほどの「呼吸法を行う」というところに似ています。初めての方や慣れていない方は気が散ってしまったり難しさを感じやすいかもしれませんが、私が瞑想に慣れない頃にトライしていた方法も織り交ぜてご案内していきます。

【外から聞こえてくる音に意識を向ける】

“今・この空間にいる”ということを味わうことができます。

①楽な姿勢を見つけていきます。(胡坐でも椅子に腰かけても仰向けになっても良い。)
②目を閉じて(あるいは鼻先遠くを見つめて)外から聞こえてくる音に意識を集中していきます。
③外から聞こえてくる音を「ただ聞く」という意識で5分を目安にトライしてみましょう。

【音楽に集中する】

小さな音に気が散ってしまう方や集中力が持たない方におすすめです。私はリラックスできる心が落ち着く曲を選んでトライしていました。ヨガも『マントラ』という歌が存在します。マントラには様々な種類があり、それぞれに異なる「波動」があります。人それぞれにマントラを処方することもあるようです。また、『キールタン』という「歌う瞑想」と呼ばれるものもあります。皆さんも「音楽で心癒される」と感じることは多いのではないでしょうか。ご自身がお好きな音楽でトライしてみてください。

①楽な姿勢を見つけていきます。(胡坐でも椅子に腰かけても仰向けになっても良い。)
②目を閉じて(あるいは鼻先遠くを見つめて)自分が好きな音楽に集中していきます。
③メロディーや歌詞があれば歌詞に意識を向けて聞いてみましょう。

【祈る瞑想】

自分や誰かに祈りをささげることで、心が穏やかになる瞑想方法です。『慈悲の瞑想』というものもあります。YouTubeで『慈悲の瞑想』と検索すると様々な先生が動画を公開してくれています。ここではシンプルな『慈悲の瞑想』を乗せてみます。

楽な姿勢で座ることができたら、両手を胸の前で合わせます。
目を閉じ、目の前に自分をイメージしていきます。
その自分に対して「幸せでありますように。」と祈ります。
次にその隣に身近な人やペットなど大切な人をイメージします。
その人に対して「幸せでありますように。」と祈ります。
今度は自分の嫌いな人、あるいは苦手な人をイメージします。
その人に対して「幸せでありますように。」と祈ります。
最後に自分にかかわる人々をイメージしていきます。
その人々に対して「幸せでありますように。」と祈ります。

4.掃除をする

ヨガ哲学では掃除をすることを「清浄(シャウチャ)」と呼び「日常の中でやった方が良いとされる行い」の中で勧められています。大きく分けて「体内の浄化・体外の浄化・身の回りの空間をきれいに保つ」といった日常を送ることで心が穏やかになり、様々な情報や出来事に対してネガティブな感情が起きにくくなると言われています。

よく耳にするのが「部屋が汚い時は頭の中もごちゃごちゃしている」という言葉。最近は「ミニマリスト」という言葉もよく聞きますが、物が整理されていることで頭の中もスッキリして新しい発想が浮かびやすいのだそうです。

綺麗になると心もスッキリしていきます。部屋はもちろん、ご自身をきれいにする行為(お風呂に入ったり・良質な食材を調理したり)も行って気分転換をしてみてはいかがでしょう。

5.体を動かす

身体を動かすことでストレス発散になります。ヨガや筋トレなど運動によって筋肉を動かすと幸せホルモンと呼ばれる「セロトニン」や「エンドルフィン」といったホルモンが分泌されます。セロトニンは安心感など精神を安心させてくれて脳を活発にさせてくれるホルモンで、エンドルフィンは気分を良くしてくれ、リラックス効果や免疫力向上に効果のあるホルモンだそうです。

運動が苦手な方や習慣がない方はリラックスヨガやストレッチ、軽い筋トレ、ウォーキングなどが行いやすくおすすめです。また、じっとしているとそわそわする方や、アクティブに動くことが好きな方、普段から重だるさを感じる方はハードに動くヴィンヤサヨガやアシュタンガヨガ、ハードな筋トレ、バスケやバレーなどのスポーツ、ランニングなどがおすすめです。

6.誰かと話す

誰かと話すことで安心感を得られます。心にためているモヤモヤを解消するために話してもいいし、何気ない話題を話すだけでも不安解消に繋がります。笑うことでストレスを軽減させ、心拍数を落ち着かせる効果がありますし、笑顔になると自律神経にある副交感神経を優位にしてくれて呼吸や心拍・血圧などが穏やかになってリラックス効果に繋がります。

また、泣く(涙を流す)こともストレスや不安解消に効果があります。涙を流すことも副交感神経を優位にさせて脳がリラックスすることができます。泣いた後、「スッキリした」と感じることはないでしょうか?あのスッキリ感は心身にプラスの効果をもたらしているのです。

また、会話をすることで脳が活性化され元気でいられます。友人や家族と会話する時間を大切になさってください。

心に根強く残る不安を解消したい時におすすめの方法

ここからは心に根強く残る不安や過去のトラウマからくる不安を解消したい時におすすめの方法をお伝えしていきます。自己肯定感の段落でお伝えしましたが、過去の辛い経験が成長しても生きづらさを感じる原因につながると書きました。過去の経験はとても根強いものですが、少しずつできるものからトライして、過去のトラウマからくる今の不安から皆さんが少しでも楽になるよう願います。

思考のブロックを外していく

「不安の感じ方は人それぞれ異なる」のところで色眼鏡で見ている世界は一人一人違うとお伝えしました。先ほど見つけ出した不安の核となるものが過去の経験から来ているものだとしたらその時の経験で感じた感情は「本当にそうなのか?」と問うことも不安の解消に繋がります。「あの時不安に思ったもの」に対して第3者の目線から客観的に観察してみるのです。皆さんは誰かから「あの人、私に対して絶対怒っているよね・・・」などと相談されたときに「そうかなあ?(そんなことないと思うけど。)」と思ったことはありませんか?主観的な思考と客観的な思考と分けて考えてみると自分が思い込んでいたものに新たな視点を向けることができます。

私も実際に思考のブロックを外すことを目的としたカウンセリングを受けた経験があるのですが、今感じている不安には過去の経験が根っことしてあることが多いです。カウンセリングをしてくださる方と会話をしながら悩みの原因となった過去の出来事を探り、今の視点から当時の状況を客観的に見て、“思い込み”という名のブロックを外していく。という作業をしていく事で今の状況を変化させていくというもの。苦痛に伴う反発の感情を手放し、色眼鏡の色を変える作業といった感じでしょうか。

自分一人で作業するのであれば「不安の原因を探る作業」とあわせて「その思考は本当にそうなのか?」と客観的な視点で観察してみてください。何か新たな視点が生まれるかもしれません。カウンセラーの方もお住まいの地域、あるいはオンラインが発達した現代であれば繋がりやすいのでぜひカウンセラーの方と一緒に不安を解消してみてください。

不安を解消して穏やかな日常を。

いかがだったでしょうか。不安とは私たちを守る本能であるというところから、その原因の探り方、解消したい時におすすめの方法をお伝えしました。不安も様々な感じ方や内容があると思います。

今回のような自然災害はいつ発生するか分からないため、「また起こるのではないか」と恐怖にかられやすく、心が休まりません。このような不安の原因を解決できないような漠然とした不安がある時、やるせない感情でいっぱいになった時に一朝一夕で解消できるものでは無いかもしれませんが、繰り返すことで必ず新しい癖が身についていきます。うまく付き合いながら少しでも皆さんの心が1日も早く穏やかになればと願っています。

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この記事を書いた人

井出 かなえ kanae ide

経歴:介護士としてご利用者様の機能訓練に携わる。その後はスポーツクラブにてインストラクター業をスタート、RYT200を修了・Lesmillsインストラクターとして3年間グループレッスンとマシンジムスタッフを経験する。故郷である佐渡島に帰郷し「 YOGA studio Light 」をオープン。2023年春に宮古島にて2回目のRYT200を修了。佐渡島を中心に現在も活動中。
ヨガ歴9年・指導歴6年目 / 資格: RYT200修了・介護福祉士・初任者研修修了